モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その2

奥田 碩 さんの講演内容です。

1. 中国の発展がもたらす日本への影響

1.1 生産技術力を身につけた中国

わが国のモノづくり産業、製造業が改革を迫られている背景には、第 一に、今日におけるめざましい中国の発展があります。

今や中国は、エアコンやテレビ、冷蔵庫といった家電製品をはじめ、 粗鋼やモーターバイクなどでも世界シェアでトップに立っています(図1.1参照)。

このような中国の急成長は、外資の技術力、とりわけ生産技術と、中国の豊富で廉価な労働力とが結びついた結果だと思われます、そのスピードはわれわれが予想したよりも、はるかに速くなっています(図1.2 参照)。

とりわけ、労働力の豊富さに関しては、圧倒的なものがあります。聞くところによれば、上海や、広州近くの東莞などでは、たとえば「20 歳から 24歳までの右利きの男性で、視力 2.0以上、座高が105cmから115cmの人を10人募集」といった張り紙を出すと、翌朝にはたちどころに 100 人くらい集まる、といった状況にあるそうです。

しかも、勤務態度はおしなべて良好であり、欠勤率は1%以下で、残 業や休日出勤なども争って働くそうです。それで賃金水準は日本の 1/20 なのです(図 1.3参照)。

こうした豊富で廉価な労働力が、欧米や日本から持ち込まれた最新鋭の生産設備、生産技術と結びついて、これを十分に使いこなして、高い品質水準を実現しています。ですから、日本国内で中国と同じモノを作 っていたのでは太刀打ちできないことは当然だと考えなければならないでしょう。

すでに言い尽くされたことではありますが、これからは、コモディティ化した製品、標準化された大量生産の商品に関しては、中国と競争することは難しいと考えざるを得ないと思われます(図 1.4参照)。

中国が経済開放政策を取り続けるかぎり、こうした方向性は変わらないものと思われます。そうした中では、わが国は先端技術やブランドなどで差異化した、付加価値の高いブランド商品を中心として、中国の大 量生産のスタンダード商品と住み分ける、いわゆる「水平分業」を戦略としていくべきだと思います(図1.5参照)。