モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その7

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.1.2 科学技術創造立国の確立と MADE “BY” JAPAN 戦略

 それでは、「MADE “BY” JAPAN」戦略とはどういうものか、考え 方としては、企業経営における連結経営の発想を、国の経済戦略にも取り入れていこうというものです(図 3.3参照)。

(1) 連結経営の発想

 現代は人、モノ、 カネ、情報がグローバルに行き交う時代であり、とりわけカネと情報については、きわめて速いスピードでボーダーレスに 移動しています。こうしたなかで、今日の日本企業は、海外子会社を含めた連結決算ベースの経営を進めることが多くなりました。また、これ とは逆に、外国企業の日本法人は、日本でビジネスを展開しつつ、外国企業の連結決算に組み込まれています。  

これを、日本の経済活動に応用してみると、日本企業の対外直接投資 が生み出す収益やライセンス料などを日本国内の経済活動に還流させて、 さらに先進的なイノベーションに結び付けていく、という考え方が出て きます。日本から新技術や新商品を発信し、それを世界の各国が作って 世界中で売り、その一部は日本にも輸入する、ということになります。 世界のフロントランナーとして、世界に発信していこうということです。

現実には、すでに日本のグローバル企業では具体的な取り組みがはじ まっています。ある程度コモディティ化した商品、労働力の豊富さや廉 価さが競争力に直結するような商品については、たとえば中国に投資を して、技術を移転し、そこで作って日本をふくむ全世界へと輸出する、 という戦略をとっている企業は数多くあります。その一方で、日本国内 においては、同じ企業が、最新技術やデザイン、あるいはブランドなど によって差異化した、日本でなければつくれない商品に特化していこうとする、などといった例です。

このような水平分業を進めるのにとどまらず、海外投資などで獲得した利益を日本国内に還流させて、それを研究開発などに投下することで、 さらなるイノベーションに結びつけていくことができれば、日本はつねに世界の一歩先を行く技術水準を実現していくことができるでしょう。 これが、今後わが国が目指すべき姿なのだろうと思います。技術やノウ ハウを積み上げて、ビジネスに生かすだけにとどまらず、それをグロー バルに展開し、さらなるイノベーションにつなげるダイナミズムをもった国をつくることが、本当の意味での「知的財産立国」ということになるのだろうと思います。

連結経営的な考え方を応用すれば、日本企業の海外進出だけではなく、 外資によるわが国への対内直接投資を増やし、それを日本国内のイノベーションにつなげていくという発想も出てきます。 このところ、金融や保険、あるいは流通などを中心に、外資の参入が 目立つようになってきました。自動車産業でも、外資が活発に参入して きています。しかし、わが国が擁する巨大な消費市場を考えれば、わが 国に対する海外からの投資は、まだまだ少ないと考えるべきでしょう。 今後は、外資が進出しやすい環境、外資を誘致しやすい環境を準備して、 資本だけでなく、外資のもつ優れた技術やノウハウを積極的に取り込んでいくことが大切です。新技術や新製品の開発についても積極的に海外 の力を生かすことは、「科学技術創造立国」を実現させるうえでも重要 な戦略になります。