モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その18

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3.6 持続可能な社会保障と財政

これからのわが国にとって最も重要な課題が、将来的にも持続可能な 社会保障制度の再構築であり、それも含めた財政の健全化であることは、 論を待ちません。

しかし、残念ながら、2004年に成立した年金改革にしても、依然と して従来の延長線上での議論に終始し、制度の本質的な問題点にまで踏 み込んだ見直しには遠くいたりませんでした。日本経団連の「新ビジョ ン」では、社会保障に関しては、少子化・高齢化に耐えうる、足腰の強い社会保障制度の再構築を提言しています。社会保障本来の役割に立ち 返って、給付の重点化を進めるとともに、抜本的な医療改革などの合理 化をあわせて実施していく必要があります。それと同時に、財源も国民 が広く薄く負担する方向、具体的には消費税へのシフトを進めるべきで あると考えます。

財政全般につきましても、公共投資の抑制や重点化などの歳出構造改 革や、民営化もふくめた特殊法人改革、あるいは民間でできることは民 間で、地方でできることは地方でやるという理念を徹底した、行政改革 の推進が最優先課題であります。経団連のビジョンでは、こうした施策 をすべて断行することを前提とすれば、消費税率を段階的に引き上げる ことで、持続可能な社会保障制度を確立するとともに、財政のプライマ リーバランスを達成できるという見通しを示しています。

すなわち、社会保障をはじめとする財政支出の徹底的な見直しを実施 しても、なおかつ財源が足りない分を消費税の引き上げでまかなうという考え方です。それにより、社会保障、ひいては国家財政を持続可能で 信頼できるものとして、国民に安心をもたらすことができるのであれば、 国民の理解と支持は必ず得られるものと考えております。 マスコミなど では、消費税大幅アップという言葉ばかりが独り歩きしてしまったきら いがあり、一部には現状を温存したままで消費税を引き上げようとしているのではないかという批判もありましたが、これは全くの誤解です。 わが国の将来をどうしていくのか、とりわけ、社会保障制度を持続可能 なものとするにはどのような方策があるのか、といった観点から、消費 税に関する議論が活発になることを期待しているのです。