中部地区中小製造業におけるB2Bネット取引の現状と課題 その5

中部地区中小製造業におけるB2Bネット取引の現状と課題 その5

.B2Bビジネスに内在する問題点と将来への方向性

バイヤー型モデルおよびマーケットプレース型モデルに内在する問題点とその方向性について考察する。

(1)バイヤー型モデルに内在する問題点と方向性

このモデルにおいて、一般的にバイヤーは基本的に大手企業であり、セラーは資材の納入業者であると想定される。中小企業はセラーにあたる。この場合、Netを開設し運営にあたるのはバイヤーである大手企業である。バイヤーである大手企業の第1の目的は、従来の固定的取引関係の枠を外し、多くの引合い案件を獲得することによる、仕入価格の引下げであると考えられる。バイヤーである大手企業と従来から安定的な取引関係にあったセラーである中小企業は、新たな競争相手の出現により、激しい価格競争にさらされることになる。これにより、長年かかってサプライヤーとの間に築いてきた、友好かつ信頼的ともいえる戦略的関係を真っ向から覆すことになりうる。その意味で、大手企業のあらゆる部分でこのモデルが採用されていくことは必ずしもその企業の戦略上好ましいとは言えないものと考えられる。あまり専門的に特化しないか、技術的に成熟した原材料や部品等の製造財や、MRO(Maintenance, Repair and Operating)と呼ばれる消耗品や各種サービス等の非製造財が中心となろう。今後、大手バイヤーがNet調達をさらに進めていくことが考えられるが、中小製造業においては、これらの特質を持った製品・サービスを展開することが有効であると考えられる。

(2)マーケットプレース型モデルに内在する問題点と方向性

このモデルは、中小製造業がバイヤー、セラー双方に参加しうる形態であると考えられる。Netの主催者は必ずしもバイヤーとセラーから中立的なものであるとは限らない。このモデルにおいても、一般的にオープンな競争状態により価格の低下が起きる。このような価格主導型のサイトでは、セラーに利幅が少ない。どうしてもバイヤーに偏った取引形態になりがちである。セラーにも強い魅力がが働かなければ永続的なサイトの運営を維持することはできない可能性がある。これらの懸念に対し、マーケットプレース型サイトの今後の方向性について、中小製造業が対象となると考えられるものを考察する。

ひとつは、単純な取引から複雑な取引を取り扱うようにすることである。複雑な製品やサービスをオンラインで購入する際、買い手が必要とする情報収集や分析を手助けする企業(スペシャリスト・オリジネーター(注1))が、Net主催者として活躍するものである。あるサイトがその事例と言える(注2)。これは、セラー企業の技術や生産能力を紹介し検索する工場検索エンジン、「物づくり掲示板」と呼ばれる関係業者間のコミュニケーションページ、および工作機械メーカー等の情報ページからなる。2000年11月現在、登録企業数が5,000社を超えている工場検索エンジンには、登録企業の金属加工における専門的かつ詳細な分類が800項目以上あり、買い手である発注企業が必要とする情報収集の手助けを行う機能を有しているといえる。

 もう一つは、取引ビジネスからソリューション・ビジネスへの変化である。これをソリューション・プロバイダーという(注1)。これは、セラー側が運営するものと、セラーでもバイヤーでもない中立的な第三者が運営するポータルサイト(インターネットの利用者が情報を探すときに最初にアクセスする場所)に大別される。サプライヤーが運営するものの例としては、ある米国工作機械メーカーが運営するものがある(注3)。これは、バイヤーが必要とする加工物の材質、形状、品質等を詳細に分類された選択肢から選ぶと、最適な加工条件や工具および冷却液等の副資材が示され、その場で注文できるというページが設けられている。また、工具破損等のトラブルFAQ(注4)も設置されている。また、第三者が運営するポータルサイトとしては次のような機能を有するものが想定できる。たとえば、バイヤーはある最終製品のCADの図面データ、希望コスト、納期などの情報をNetを介して入札する。サイト運営者は必要な工程や原材料を設計し、それぞれの専門業者をコーディネートし、サイト上に取引き案件として入札する。これに対し、仕事を探しに来たセラーは自分の引き受け可能な案件に入札し、入札情報を見て、バイヤーは最適な業者を選択する仕組みである。これはまだ事例として紹介できるものは見つからなかったが、今後の方向性として有効な形態の一つではないかと考えられる。

 

(注1)ディビッド・モリソン&リチャード・ワイズ;B2Bの近未来:ソリューション・ビジネスへの進化/ハーバード・ビジネス・レビュー 2000年12月号,ダイヤモンド社

(注2)(社)中小企業研究所;事例30 日本の金型職人集団が世界に向けて発信/徹底取材!!eビジネスベストサイト 2000年版,同友館

(注3)http://www.milpro.com/index.htm

(注4)Frequent Answer & Question よくある質問と回答

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