モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その11

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.1.5 技術ノウハウの保護・権利化と防衛

 科学技術創造立国戦略において、知的財産戦略は非常に重要であり、 モノづくり企業の改革も、これを抜きにしては考えられません。

(1)保護、権利化

前に述べたように、アメリカ産業の復活にあたっては、米国政府は、 自国の産業構造高度化のビジョンを描き、それを実現させるための環境

を整えたのですが、その環境整備のなかでも、もっとも重要なものの1 つが、知的財産の保護、いわゆるプロパテント政策です。

その結果、アメリカにおける特許出願件数は 1990年度の約16万4千 件から、2002年度には約33万4千件と、2倍以上に増加したといいま す。また、アメリカにおける知的財産関連の収入は、1990年には 150 億ドル(約1兆6,000億円)程度であったのが、2000年には実に 1,300 億 ドル(約 14 兆円)を超える規模にまで増加したという調査結果もあるそ うです。これは、タイやフィンランドといった国のGDPに匹敵する規 模であり、こうした数字を見れば、知的財産戦略を国家をあげて推進していく必要があることは、一目瞭然でしょう。 ・ 一方、わが国の実態は、国民一人あたり特許件数は世界一であり、決 して他国に劣るものではありません。しかし、国際収支統計における特 許等使用料の収支は恒常的に赤字であり、2003年にようやく黒字に転換したものの、そのおもな要因は製造業の海外現地生産の拡大によるも のだと思われます。今後、官民をあげて知的財産戦略をさらに強力に推進する必要があることは論を待ちません。政府においても、知的財産戦 略本部が中心となって諸般の施策が進められており、2004年に入って 以降も、特許法の改正や知的財産推進計画 2004 の策定などが実施され ました。ここでは2点、今後の具体的な課題を指摘しておきたいと思います。

(2) 著作権侵害への対策

第1は、特許審査の迅速化です。わが国の特許審査は、平均で2年5 カ月もの長期を要しています。ところが、このうち実質的に審査に要しているのは、実は5カ月間に過ぎず、残りの2年間は、単なる待ち時間 となっているのが現実だといわれます。常時数十万件という多数の出願 が審査待ちとなっているといわれ、2008年にはこれが 80万件に達する と見込まれていることから、待ち期間の短縮は、とりわけ喫緊の課題です。

わが国の特許出願件数は、年間 40万件を上回り、 アメリカの 33 万件、 ヨーロッパの11万件を大きく上回っているにもかかわらず、審査官の 人数は、欧米ではそれぞれ 3,000 人程度となっているのに対し、わが国 では約3分の1の1,000 人強にとどまってきました。今般、審査の迅速 化をめざした特許法改正が行われ、 2013年には世界で最速の審査体制 をめざすとの方針も掲げられましたが、審査の迅速化は、ベンチャービ ジネスの育成の観点からも重要であり、ぜひとも実効につなげてほしい ものです。

第2は、模倣品、海賊版対策です。模倣品や海賊版は、企業や著作権 者などのもつ無体財産権を盗み取るに等しいもので、 とうてい許しがたいものです。しかし、残念ながら、中国をはじめとするアジア諸国を中 心に、こうした権利意識が不十分な実態があります。こうした地域が急 速に工業化したことにともない、模倣品や海賊版の被害も急増しており、 関係団体の推計によれば、中国におけるわが国コンテンツの権利侵害の 被害額は、年間約2兆円にも達しているということであり、これはもはや放置することはできない段階となっています。

これに関しては、われわれ民間企業が、あらゆる模倣品や海賊版に対 して、それを許さないという強い姿勢をもって対処していくことが、な により必要であり、たとえば、キャラクター商品大手の「サンリオ」は、 同社のキャラクターを無断で使用していた商品を生産していた工場の摘 発と、被害品の押収に成功しています。

また、官民をあげての知的財産外交も、強力に推進していく必要があります。一昨年末には、国際知的財産保護フォーラムの座長であり、当 時経団連の副会長も務めていた松下電器産業の森下会長を代表に、当時 の西川経済産業省副大臣を政府代表に加えて、知的財産保護に関する官民合同のミッションが一週間にわたって中国各地を訪問し、模倣品の現 物を示しながら抗議するとともに、事態の改善を要請するといった取り 組みも行われました。

知的財産推進計画 2004には、模倣品・海賊版対策の強化も盛り込まれています。各国において知的財産の管理体制が確立され、権利が適正 に保護されることは、中長期的には各国自身の経済発展にも資するもの ですから、国際協力という見地もふくめ、強力な施策の推進をお願いしたいと思います。

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