「同一労働同一賃金」への対応策の続きです。
弁護士の見解
Q1:N社事件では、裁判所は会社の嘱託に対する賃金の運用等が、嘱託社員に配慮していると評価して
います。
具体的にはどのような事実関係が「配慮」とみなされたのでしょうか?
A:以下の点を重視していました。
① 基本賃金→定年退職時の基本給よりも高く設定していた
② 歩合給(定年前の能率給に相当)→係数を能率給より高く設定していた
③ 基本賃金、歩合給の係数→団体交渉を経て、嘱託社員に有利に変更した
④ 老齢厚生年金の支給が開始されるまでの間→調整給(2万円)を支給していた
Q2:N社事件において、前頁の配慮をせずに賃金を決めた(例えば単純に定年前の●●%を定年後の
賃金とした)場合は、基本給部分についても不合理であると判断される可能性はあるのでしょうか?
A:あると考えます。当判決では定年前の「基本給、能率給、職務給」と定年後の「基本賃金、歩合給」を
比較して、労働契約法第20条に違反しないかを判断しています。
そして前頁の配慮を考慮したうえで、労働契約法第20条には違反していないと判断しています。
従って基本給の引き下げがあまりに大きい場合は、「不合理」(労働契約法第20条違反)と判断される
可能性は十分にあると考えます。
Q3:当事件は定年再雇用者にかかる事件ですが、定年再雇用者ではなく、60歳を過ぎてから
中途入社した従業員についても、同様の判断が下されると考えられるでしょうか。
A:どちらの結論もあると考えます。
定年後再雇用であることは、労働契約法第20条の「その他の事情」として、会社に有利な事情として
考慮されています。このため、定年再雇用者ではない場合には「有期契約労働者」と「無期契約労働
者」として賃金が比較され、内容によっては「不合理」と判断される場合もあると考えます。
具体的に考えても、定年再雇用者でない場合、今回の事例のような調整給は支給しないと考えられ
ますが、この点は、会社側に不利な事情として考慮される可能性があると考えます。
Q5:そもそもですが、当事件では「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」
および「その他の事情」はどのように判断され、どのように判決に影響したのでしょうか。
A: 「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」に相違はないと判断されました。
その上で、「その他の事情」として、Q1の回答に挙げた諸事情を配慮しつつ、「基本賃
金+歩合給」(定年後)と「基本給+能率給+職務給」(定年前)を比較し、そ
の減額の度合いを見ています。
なお弁護士の私見では、団体交渉の結果、基本賃金や歩合給の係数を段階的に引
き上げている点が評価されたものと考えています。