モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その20

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3.8 非営利部門の充実

今後わが国にとって、発展、充実させなければならないのは、社会的 な助け合いの担い手となる、 NPOなどの非営利部門の強化、充実です。

これまでのわが国における相互扶助のしくみは、年金や医療保険のように行政が提供するもののほかは、企業や地域社会、あるいは家族といったものがその担い手となってきました。それゆえに、多様化と個人化 が進み、こうした枠組みが風化し、空洞化してくると、それに代わる相 互扶助の担い手がきわめて不十分になっているのが現状です。

ここで期待されるのが、新しい連帯関係の担い手としての、非営利部 門の役割です。ボランティアやNPOなどの非営利部門の活動は、最近 でこそわが国でもかなり充実してきた感がありますが、欧米諸国と較べ ると、まだまだ発展の余地があります。このような、行政と家庭、個人 との間の分野の公共的な部分を強化していくことが、多様化社会を豊か なものとしていくための重要なかぎを握っているのです。

民間企業も、そのために、これまで以上の役割を果たしていくべきで しょう。そのためにも、寄付金税制の大幅な見直しなどの環境整備が急 務です。

また、非営利部門が新たな雇用の場として大きな可能性を秘めている ことも、見逃すことはできません。非営利部門と営利部門とが限られた 市場を奪い合うのではなく、互いに連携しあい補完しあうことで、経済 全体を発展、成長させていくことを可能にしていくべきだろうと思います。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その19

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3.7 新たな住環境の整備

 今後の、新たな成長の源泉として重点的に取り上げているのが、住環 境の整備です。わが国はずいぶん豊かになり、これ以上ほしいものがなくなったのが消費不振の原因だ、という意見すらあるくらいですが、そうしたなかで、国民が強く望んでいるにもかかわらず手に入らないのが、 広くて良質な住宅をはじめとした、豊かな住環境ではないかと思います。

「家庭」という言葉は、「家」と「庭」があって「家庭」になるのだ、 という話を聞いたことがあります。たしかに、ベランダに洗濯物を干せ ばプランターのひとつも置けないというような暮らしでは、うるおいの ある家庭生活はなかなか望みにくいのではないでしょうか。貧しい住環 境に甘んずるなかでは、豊かな発想も生まれないし、国や社会の将来に ついて考えるような高い志など決して望めません。これは極論ですが、 高い天井は高い志に通じるのです。

また、わが国の住宅は、安全面でも大きな問題を抱えています。過去 に発生した地震をみても、多数の住宅が倒壊するなどの大きな被害が出ている事実があります。わが国の住宅のうち、半数近くに相当する約 2,100 万戸が、現在の住宅耐震基準が施行された1980年より以前に建築 されたものであり、その耐震性については、かなりの懸念があるのです。

また、大都市圏には木造住宅の密集区域が多く見られ、東京圏の場合、 大地震が起きた場合には、実にその80%は焼失するだろうと予測され ています。

これに対し、ヨーロッパの都市では、百年以上前に作られたような石造りの家が並んでいるのを見ることができます。これが、ヨーロッパの 豊かさの源泉のひとつではないかと思います。住宅が一種の社会資本と して蓄積されていることが、国民の住宅コストを引き下げ、結果として 生活を豊かなものにしているということは、見逃せないのではないかと 思います。

それに対し、わが国の住宅の平均耐用年数は、 20 数年しかない短さ なのです。しかも、転売しようとしても、住宅をつぶして更地にしない と売れない、というケースも多く、社会資本というよりは、むしろ耐久 消費財に近いのが実情です。これでは住宅コストが高くなるのは当然で、 これが国民生活を圧迫しているのです。

そこで求められるのが、住宅を耐久消費財ではなく、国民が将来にわ たって利用できる社会資本としてとらえなおすことです。

具体的には、まず、住宅に住む人が、「所有から利用へ」意識を転換 する必要があるでしょう。 定期借地や定期借家のしくみができたので、 持家にこだわらず借家を利用すれば、住宅コストをかなり抑制すること が可能です。若い頃は小さな家に住み、子どもが増えたら郊外の広い家 に移り、定年して夫婦だけになったらバリアフリーで便利な市街地のマ ンションに移るなど、ライフステージにあわせて適当な住宅を選択する ことも、借家なら可能なのであります。

いまは、持家が一生の買い物、ということになるので、デザインや間 取りにも建てる人のこだわりが強すぎて、結果として建てるときには高 く、売るときには更地にしないと売れない、ということになっているの が多いのです。

これも、日本人が、住宅を「所有する」ことに執着することが、大き な要因になっているわけです。 住宅を作るにあたっても、これからは社 会資本として長期間の使用に耐えるような設計を行うことを重視する必 要があります。

具体的には、単に物理的な耐用年数が 100年、200年というだけでは なく、それだけの長い期間に、いろいろな家庭が何代にもわたって住み 継いでいけるように、内装の入れ替えやすさにも配慮した構造にすることが大切です。

こういう住宅を、スケルトン・インフィル住宅というそうですが、そ のような設計を普及させていかなければなりません。

そのためには、たとえばストックとして優れた住宅については税制面 で優遇するといったインセンティブを与えていくことが効果的です。現 状のローン減税ではなく、住宅建設を投資としてとらえた、より幅広い 政策減税の導入が必要だと思います。

また、ライフステージにあわせて住宅を住み替えたり、あるいは何代にもわたってひとつの住宅を住み継いでいくことを可能とするためには、既存の住宅をストックとして売買できるマーケットを整備することが必

要不可欠でしょう。たとえば、自動車であれば、下取りや転売、販売な どのしくみや、ある程度の値段の相場なども出来上がっています。その ため、年間約600万台程度の中古車が流通しており、ときには新車の販 売台数を上回ることすらあります。 * ところが、中古住宅の場合は、年間約 17 万戸程度しか流通しておら ず、新規着工が 100万戸を超えていることと較べると、非常に少ないも のにとどまっています。国際的にみても、先進諸国と較べて日本の中古 住宅市場は未整備です。 このような観点から、日本経団連では、資源の有効活用、廃棄物の排 出の抑制、安全の確保、さらにはライフステージに応じた住宅選択の自 由を拡大する観点から、住宅の長寿命化、耐震性能の改善、既存住宅の 流通市場の活性化、良質な賃貸住宅の供給など、「循環型住宅市場」の 形成を提言しています。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その18

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3.6 持続可能な社会保障と財政

これからのわが国にとって最も重要な課題が、将来的にも持続可能な 社会保障制度の再構築であり、それも含めた財政の健全化であることは、 論を待ちません。

しかし、残念ながら、2004年に成立した年金改革にしても、依然と して従来の延長線上での議論に終始し、制度の本質的な問題点にまで踏 み込んだ見直しには遠くいたりませんでした。日本経団連の「新ビジョ ン」では、社会保障に関しては、少子化・高齢化に耐えうる、足腰の強い社会保障制度の再構築を提言しています。社会保障本来の役割に立ち 返って、給付の重点化を進めるとともに、抜本的な医療改革などの合理 化をあわせて実施していく必要があります。それと同時に、財源も国民 が広く薄く負担する方向、具体的には消費税へのシフトを進めるべきで あると考えます。

財政全般につきましても、公共投資の抑制や重点化などの歳出構造改 革や、民営化もふくめた特殊法人改革、あるいは民間でできることは民 間で、地方でできることは地方でやるという理念を徹底した、行政改革 の推進が最優先課題であります。経団連のビジョンでは、こうした施策 をすべて断行することを前提とすれば、消費税率を段階的に引き上げる ことで、持続可能な社会保障制度を確立するとともに、財政のプライマ リーバランスを達成できるという見通しを示しています。

すなわち、社会保障をはじめとする財政支出の徹底的な見直しを実施 しても、なおかつ財源が足りない分を消費税の引き上げでまかなうという考え方です。それにより、社会保障、ひいては国家財政を持続可能で 信頼できるものとして、国民に安心をもたらすことができるのであれば、 国民の理解と支持は必ず得られるものと考えております。 マスコミなど では、消費税大幅アップという言葉ばかりが独り歩きしてしまったきら いがあり、一部には現状を温存したままで消費税を引き上げようとしているのではないかという批判もありましたが、これは全くの誤解です。 わが国の将来をどうしていくのか、とりわけ、社会保障制度を持続可能 なものとするにはどのような方策があるのか、といった観点から、消費 税に関する議論が活発になることを期待しているのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その17

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3.4 他者への共感

多様性を認め、そのダイナミズムを生かしていくことで、新しい豊かさと幸せを実現していこうとする時代には、従来の日本に往々にして見られたような、男性は男性、高齢者は高齢者、あるいは日本人は日本人 といった似たもの同士や、同じ職場や地域といった限られた身内では強く結束する一方で、ヨソモノは排除するといった、偏狭な仲間意識に凝り固まっていては、いきいきと人生を送ることはできないでしょう。

性別や国籍、年代などの違いをこえて、他者が自分と異なるものを求 め、生きているということを、共感をもって理解し、尊重する、骨太な 人間観が求められます。このような他者への「共感」を根底にもつこと によって、はじめて多様性のダイナミズムが生まれてくるのです。

3.3.5 社会への信頼の回復

 もう一つ大切なのは、いかに多様化の時代であるといっても、自分らしく生きるということは、自分勝手に生きるということではない、ということです。たしかに、多様化が進むということは、個人化が進むということに繋がっており、すでに、近年の日本の社会においては、家族や 親族、地域、あるいは職場における連帯感は弱まり、希薄化する傾向に あります。それに加えて、社会保障をはじめとする社会的な相互扶助の しくみも、より抜本的な見直しが必要なことは確実と考えられています。

これまでは、年寄りになったとき、病気になったとき、あるいは失業 したときなどに、家族や地域、あるいは行政などの手助けを期待することができましたが、それがだんだん期待できなくなってきているのです。 このような、社会や世間に対する信頼感が失われてきたことによって、 国民のなかに、将来に対する漠然とした不安感や不信感が広がっている のが現状だと思います。日本経済は長いこと悪い悪いといわれてきましたが、その一方で約 1,400兆円ともいわれている個人金融資産がある ことも、よく知られています。おカネはないわけではないのに、それを 使わないのは、頼れるのはおカネだけだ、という気持ちがあるからと思

います。

いまや国も、企業も、社会も信頼できない、信じられるのはおカネだ けだ、というのが、多くの国民の実感ではないかと思います。これが、 わが国の家計にゆがみをもたらしております。さらに、いつまで生きるかわからないから、そのおカネがいつまでも使えません。結局、一生懸 命働いてせっかく稼いだおカネを使えないままに死んでいくのです。こ のような国に、新たな活力や魅力が生まれるわけがありません。

こうした傾向を加速しているのが、「強者の論理」、たとえば、「自立 を強制する論理」の蔓延です。

たとえば、「これからは自己責任と自助努力の時代であり、国や企業 に頼らず、個人が自立しなければいけない」などといった単純な意見で す。常識的に考えて、あらゆる個人に向かって、国にも企業にも家族に も一切頼らずに、自分ひとりの力で、自分だけで生きていきなさいというのは、あまりにも無理な話です。ところが、現状を見ると、「自立は 善であり、依存は悪である」といった、きわめて短絡的でステロタイプ な暴論がまだまだ幅を利かせているのが現実ではないでしょうか。

しかし、世の中のしくみをすべて、そういった考え方で作っていこう というのは、あまりに自己中心的で、他人への関心や共感を欠いた考え 方です。

もちろん、日本経団連も、自己責任原則の貫徹を理念としていますが、 これは日本経団連の会員、すなわち企業や経済団体についてのことであ って、個人にまで求めているわけでは決してありません。これからの企 業は、国の規制や保護に頼らずに、自己責任でビジネスを展開していか なければならないことは、当然です。しかし、すべての国民、個人に対 してまで、企業と同じことを求めているわけではなく、また、求めることもできないと思います。 もちろん、かつてのような、封建的な家族制度に戻ることはできない し、戻すべきでないと思います。 大切なことは、これまでの家族や地域 といった、いわば限られた身内だけの強い連帯に代わる、社会全体での、 ゆるやかな新しい連帯を構築していくことであります。 「前に述べたように、自分らしく生きるということは、自分勝手に生きるということではありません。 一人ひとりの個人は、新しい連帯の中で、 自らに求められる役割をきちんと果たしていかなければならないのです。 多様性の社会であればこそ、なおさら、「公」、おおやけのなかでともに 生きる、あるいは公への貢献という価値観が強く求められるのです。そのような価値観のもとに、すべての人が自分の役割と責任をきちんと果 たしていくことで、互いに支え、支えられる、健全な依存関係を築いて いかなければならないのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その16

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3.2 時代が変わっても、人が変わっても、ゆるぎなく繁栄し続ける日本づくり

絶えざる技術開発と、環境変化に応じてつねに構造改革が行われるモ メンタムとを組み合わせることで、「時代が変わっても、人が変わって も、ゆるぎなく繁栄し続ける日本」をつくることが可能でしょうこれ は、「ある最高の状態を作り上げれば、あとはずっとそのままでいい」 ということでは決してありません。大切なのは、つねに変わりつづけ、 進歩しつづける上向きのベクトルをもちつづけることなのです。

日本経団連は 2003年1月に、「活力と魅力溢れる日本をめざして」と いう提言、いわゆる「新ビジョン」を発表しました。これはわが国が取 り組むべき政策プログラムのパッケージを提示したものであり、財政や 社会保障を持続可能なものに改革し、民間企業と地方の活力を健全な競 争を通じて発揮できる環境を整えることで、わが国は必ず新たな成長と 発展を手にすることができると主張しています。以下、その具体的なポ イントをいくつか紹介していきます。

3.3.3 多様性のダイナミズム

 新ビジョンがこれからのわが国における活力の源泉として期待しているのが「多様性」です。より具体的には、「多様な価値観がもたらすダ イナミズムと創造」です。これが、これからのわが国が発展していくための活力、エネルギーの源泉として、非常に大切な考え方になると思い ます。

これまでの日本は、経済的な豊かさ、物質的な豊かさを追求すること を、活力やエネルギーの源泉としてきたのではないでしょうか、戦後の 50年をみても、欧米の近代的で豊かな生活にキャッチアップすること を、唯一の全国民共通の目標としてきて、いまやその目標は、かなり立 派に達成できました。

ところが、それにより、これまでわが国の原動力になってきていた、 経済的な豊かさ、 物質的な豊かさに対する欲求から生まれるエネルギー が弱まってしまったことが、景気上昇局面が訪れてもなお、わが国が長 期的な閉塞感を打破できない大きな原因ではないかと思います。要する に、テレビや電気冷蔵庫、電気洗濯機などの電化製品、あるいは自動車 など、生活の快適さや利便性が飛躍的に向上して、誰にとってもそれが 幸せに直結するような、モノの形をした具体的な目標がなくなってしま ったのです。

わが国はもはや、モノとカネがたくさんありさえすれば幸せだ、とい う価値観の国ではなくなったと言うことです。たとえば、エルメスの 100万円のスーツが欲しくないか、と聞かれれば、誰でも欲しいと答えるかもしれません。しかし、それを誰もがローンを組んでまで買いたい か、といわれれば、そうではありません。あるいは、毎日一流ホテルの レストランで高級ワインを飲み、 フランス料理を食べるために、毎日わき目もふらず、残業や休日出勤をいとわずに働くかといわれれば、そういう人は多くはないと思います。

もし、これまでのように、モノとカネの豊かさをひたすら追求していけばよいということであれば、国民のだれもがブランド品をもち、毎日 フランス料理を食べられることを国家の目標にすべきだということになります。しかし、本当にそうすべきか、といわれれば、そうではないと 考える人の方が多いと思います。

考えてみればあたりまえのことでありますが、ブランド品をもってフ ランス料理を食べることだけが幸せではないでしょう。あえてブランド 品をもたないことを幸せだと思う人もいますし、自分で野山で集めた山 菜を料理して食べることに幸福感を感じる人もいます。たくさんのモノ、 あるいは高いモノを買って、所有することだけが幸せであるという画一 的な価値観の時代から、人それぞれが自分なりの価値観をもって、自分 なりの幸せを考える時代に変わりつつあり、モノとカネの豊かさに加え て、心の豊かさ、精神的な豊かさというものを考えていく段階に入って きたのではないでしょうか。事実、すでに、これまでの画一的なライフ スタイルや価値観の枠組みに収まらない、新しい生き方、新しい幸せを 追求しようという動きが目立つようになってきているように感じられます。

たとえば、「男は仕事、女は家庭」という画一的なライフスタイルに 納得せずに、職業をもって社会に進出する女性や、定年退職後も、生き がいと働きがいを求めて働き続ける高齢者などです。高齢者の中には、 自らの技能を生かせる職場を求めて、海外に仕事を求める人もいます。 ひとくくりに「高齢者」といってすますことのできない現実がそこにあ ります。

今となっては、従来の画一的な価値観を前提にしたしくみは、国民が 自分らしく生き、自分なりの豊かさを追求しようとするエネルギーの発 揮を、かえって妨げる方向に働いてしまいかねません。心の豊かさや多 様性といったものを中心において、あらゆる政策を転換していく必要があり、それによって、国民が新しい幸せの追求に向けて、エネルギーを 発揮していけると考えています。

もちろん、これまでも多くみられたように、自分の仕事を天職と考え て、長い年月をかけてそれに打ち込み、高い技能を身に付けていくのも、

立派な生き方であることには変わりありません。従来型の価値観を一切 認めないということは、逆にいえば新たな画一性、没個性に陥ることに つながります。大切なことは、伝統的なものも革新的なものも含め、多 様な生き方や価値観を認めて、お互いに刺激しあうことではないでしょうかそれを通じて、従来型の価値観や生き方を選択した人も、周囲の 多様な価値観に刺激されることで、新しい活力を生み出していくことが できるのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その15

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.3 日本の未来に夢と生きがいがもてる進路づくり

第3番目の大きな課題は、「日本の未来に夢と生きがいがもてる進路 づくり」です。今日の日本には、少子化、高齢化をはじめとしてさまざまな不安材料があります。こうしたなかで、日本という国を今後どのようにしていくのか、人々の心に希望を与えるような、夢と生きがいを感 じさせられるような進路、ビジョンが求められています。

3.3.1 日本に「成長エンジンと制度インフラ」の強力な両輪づくり

国家経済を自動車にたとえれば、科学技術開発の創造が成長のエンジ ンであるとすれば、財政や税制、社会保障などといった制度インフラは、 ボディやサスペンションに当たるものだろうと思います。いくらエンジ ンが強力でも、ボディやサスペンションが弱かったり、重すぎたりした ら、長期間にわたって安心して走りつづけることはできません(図 3.6 参照)。

キャッチアップという「坂の上の雲」をめざして、 エンジンをフル回転させながら、ひたすら登り続けてきました。このような時期には、ボディやサスペンションは、大きくて無骨で、 とにかく 頑丈なものであることが求められていたと思います。

それに対し、これからは、グローバル化や少子化・高齢化といった厳しい環境変化のなかで、竹中平蔵さんの言葉を借りれば、「日本は狭く 細いナローパス、隘路を行かなければならない」のです。

しかもそれは、いわば見通しの悪い濃霧の道であり、そのうえ、環境 変化に取り残されないよう、これまで以上のスピードで走り抜けなければなりません。このような状況で、引き続き技術革新のエンジンをフル 回転させて走っていくためには、ボディもサスペンションも、強靭であるとともに、軽くて、柔軟性の高いものに整備しなおしていく必要があるでしょう。 それこそが、経済や財政、あるいは社会保障の構造改革な のです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その14

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.2.3 人材の育成

わが国にとって、一番大切なことは、人を育てるということでありま す。

最近、長引く経済の不振のなかで企業業績が思わしくなく、企業が人 材を育成する余力がなくなっている、というようなことがいわれます。

たしかに、たいへん立派な経営者のなかにも、「もう新卒を採用して 育てているのでは間に合わないから、中途採用で即戦力を採用したい」 とか「就職するときには即戦力に育っているような教育政策、 人材育成 政策が必要だ」などという人がけっこういますが、それだけではうまく いかないと思います。即戦力になるような実力のある人なら、欲しい企業も多くあり、当然そういう人の値段は高くなるでしょうそれを、企 業内で育ててきた人と同じ賃金で採用しようというのは無理というもの です。

雇用情勢はまだまだ厳しい状況にありますが、それでも採用してすぐ に即戦力になる人は少ないのが実情です。しかも経済は上向いています から、ますます即戦力になる人材の採用は難しくなってくるでしょう。

結局のところ、「これからの日本の教育は即戦力を育てなければいけ ない」などという他人任せの態度では、人材の確保は難しいのです。む しろ、いかにして優秀な人材を育て、やる気を高めて、会社に貢献して もらうかが、企業の競争力を決定すると考えるべきです。事実、日本商 工会議所が実施した「総合的人材ニーズ調査」の分析結果が商工会議所 のホームページに掲載されていますが、それを見ると、業績が拡大し、 成長している企業ほど、人材育成に積極的に取り組んでいることが明ら かにされています。

「業績不振だから、人材を育成していられない」などという企業に未 来はありません、業績不振であればこそ、歯を食いしばってでも人材育 成に取り組み、人材の成長と業績の拡大の好循環をつくっていかなければなりません。 人材育成は、決してコストではなく、研究開発投資などと同様に、将 来の企業経営を支えるための大切な投資なのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その13

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.2.2 現場力の点検と再構築

 具体的には、知的熟練を蓄積した熟年層の技能者がリストラされた結 果、現場の技能の水準が低下し、それが相次ぐ工場の火災や事故などに つながっているとの指摘もあります。

そのような目で近年の事故やトラブルをみて見ると、現場の手違いや 手抜きがあり、これらは利益や業績を過剰に意識したための違反行為が 原因となっていることが多いように思います。その背後には、単なる規 律や気持ちの緩みといった問題ではなく、現場の人材の力、いわば「現 場力」といったものの低下を招く構造的な要因があるのかもしれません。

これは明白な証拠があるわけではありませんしかし、一連の事故の 大きな要因として、現場の熟練工や高度人材の減少、過度の成果指向に よる従業員へのプレッシャーが働いているのではないかという懸念は残ります。

さらにその背景として、世間に長期雇用や企業の雇用維持努力を軽視したり批判したりする風潮が広がったことを指摘する意見もあります。

一つひとつの現場の努力が国家経済の土台を支えており、その劣化を 放置しては技術革新も経済発展もありえません。私たちはこうした指摘 を謙虚に受け止め、 リストラに邁進するあまり、現場力の衰退を見過ごしてこなかったか深く反省し、再点検してみる必要があります。現場力 の維持は経営者の責任です。そして、わが国の現場力は、人間尊重と長 期的視野という、いわゆる日本的な経営によって長期間をかけて培われたものです。

これは技能に限ったことではありません。先端技術の分野においても、 長期間打ち込むことで身につく能力というものがたくさんあり、足元の 業績に気をとられ、将来的な技術力を失わないよう、注意が必要です。 今後、団塊の世代の人たちが大量に定年をむかえる時にきており、そう した人たちの培ってきたノウハウ技術を次の世代に、伝承させていくこ とも重要です。これらのことは、手遅れになる前に、その原点に立ち戻 って、PDCA サイクルが回っているか、 ノウハウ、技術の伝承がしっかりと、されているか、今一度検証してみる必要があると思います。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その12

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.2 日本の次世代を担う強靭で高能力な人材づくり

第2番目の大きな課題は、「日本の次世代を担う高能力な人材づくり」です。

3.2.1 失われつつある日本のモノづくりカ

 今後、科学技術創造立国を目指すうえにおいて、技術者をはじめとし て、高能力な人材を多数輩出していくことがきわめて重要です。

気をつけなければいけないのは、科学技術創造立国を目指しているの は、日本に限った話ではなく、世界中のあらゆる国が「技術立国」を目 指している、という現実です。そのなかでわが国が先行していくためには、並大抵の人材育成では覚束ないものと考えなければなりません。

高能力な人材は、経済・社会のあらゆる場面で必要ですが、ここでは 特に、いわゆる「現場」で技能労働に従事する人に重点をおいて考えて みたいと思います。なぜなら、これまでのわが国では、高度な技能をもつ数多くの現場の技能者たちがモノづくりの国際競争力の強化と維持に 貢献してきており、これは世界各国と比較しても特色と優位性のあるわが国の強みだからです。

当然、こうした強みは、今後とも科学技術創造立国のためには欠かすことのできないものです。ところが、このところこうした技能の力が著 しく弱体化しているのではないかと懸念されています。

たとえば、国際技能競技大会、いわゆる技能五輪の成績を見てみると、 わが国は 1962年の第11回大会から参加しており、その後 1971年の第 21回大会までの10年間で金メダル獲得数第1位が6回、2位が4回という輝かしい戦績を収めてきました。

ところがそれ以降、わが国は韓国や台湾の後塵を拝することが多くな り、 第22回大会以降は、昨年の第 37 回大会にいたるまで16回連続で、 なんと一回たりとも韓国を上回る成績を残せていないばかりか、ベスト スリーにも入れなかった大会が7回もあるという残念な結果に終わっています。

これはもちろん、韓国や台湾がめざましい工業化を遂げたことがその 背景にあるのですが、その一方で、わが国におけるモノづくり技能者の 社会的地位の低下を反映したものであるという見方もあります。

技能五輪は、22歳以下の若者が参加するものです。決められた課題 を、より速く、より正確にこなしていくという意味では、22歳の若者 でも相当のレベルに達することができるでしょう。しかし、本当の意味 での高度な技能は、さらに長い時間をかけて形成されるものです。

とりわけ、最も高度かつ重要な技能である、予期しない変化や不確実 性に対応するノウハウ、いわゆる「知的熟練」は、長期にわたって、現 場の仕事を通じて生きた経験を蓄積することが唯一の育成方法だといわれています。したがって、モノづくり現場の仕事にじっくり取り組もう という若者が減ってくることは、わが国モノづくりの競争力に重大な悪 影響を及ぼしかねる事態であると考えなければなりません。

世間では昨今、バブル経済の頃に「3K」などといわれた影響もあり、 モノづくりの現場でまじめにコツコツと働くことが何となく格好悪いと か、長年かけて手に職をつけることよりも、他人を出し抜いて金を儲けることがもてはやされたりするような傾向があるように感じられます。 これは、大変危険な兆候であり、モノづくりにまじめに取り組む人たちが、もっと社会的に認知され、尊敬されるように、官民あげて啓発をはかっていく必要があるでしょう。

また、長期間をかけて高度な技能を蓄積させていくためには、長期雇 用のしくみが必要不可欠であることは論を待ちません。一時期、足元の 業績に目を奪われ、短期的な見方に傾き過ぎて、長期雇用のもっている、 いわば人材への投資とか、あるいは人材の育成とかいった側面を見逃が したり、軽視したりする傾向があまりに強くなりすぎていた時期がある と思います。最近、それに対する反省も広がっているようですが、こう した部分がおろそかになると、長期的に見た企業の発展を阻害しかねないばかりか、産業全体の競争力の低下を招くことになります。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その11

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.1.5 技術ノウハウの保護・権利化と防衛

 科学技術創造立国戦略において、知的財産戦略は非常に重要であり、 モノづくり企業の改革も、これを抜きにしては考えられません。

(1)保護、権利化

前に述べたように、アメリカ産業の復活にあたっては、米国政府は、 自国の産業構造高度化のビジョンを描き、それを実現させるための環境

を整えたのですが、その環境整備のなかでも、もっとも重要なものの1 つが、知的財産の保護、いわゆるプロパテント政策です。

その結果、アメリカにおける特許出願件数は 1990年度の約16万4千 件から、2002年度には約33万4千件と、2倍以上に増加したといいま す。また、アメリカにおける知的財産関連の収入は、1990年には 150 億ドル(約1兆6,000億円)程度であったのが、2000年には実に 1,300 億 ドル(約 14 兆円)を超える規模にまで増加したという調査結果もあるそ うです。これは、タイやフィンランドといった国のGDPに匹敵する規 模であり、こうした数字を見れば、知的財産戦略を国家をあげて推進していく必要があることは、一目瞭然でしょう。 ・ 一方、わが国の実態は、国民一人あたり特許件数は世界一であり、決 して他国に劣るものではありません。しかし、国際収支統計における特 許等使用料の収支は恒常的に赤字であり、2003年にようやく黒字に転換したものの、そのおもな要因は製造業の海外現地生産の拡大によるも のだと思われます。今後、官民をあげて知的財産戦略をさらに強力に推進する必要があることは論を待ちません。政府においても、知的財産戦 略本部が中心となって諸般の施策が進められており、2004年に入って 以降も、特許法の改正や知的財産推進計画 2004 の策定などが実施され ました。ここでは2点、今後の具体的な課題を指摘しておきたいと思います。

(2) 著作権侵害への対策

第1は、特許審査の迅速化です。わが国の特許審査は、平均で2年5 カ月もの長期を要しています。ところが、このうち実質的に審査に要しているのは、実は5カ月間に過ぎず、残りの2年間は、単なる待ち時間 となっているのが現実だといわれます。常時数十万件という多数の出願 が審査待ちとなっているといわれ、2008年にはこれが 80万件に達する と見込まれていることから、待ち期間の短縮は、とりわけ喫緊の課題です。

わが国の特許出願件数は、年間 40万件を上回り、 アメリカの 33 万件、 ヨーロッパの11万件を大きく上回っているにもかかわらず、審査官の 人数は、欧米ではそれぞれ 3,000 人程度となっているのに対し、わが国 では約3分の1の1,000 人強にとどまってきました。今般、審査の迅速 化をめざした特許法改正が行われ、 2013年には世界で最速の審査体制 をめざすとの方針も掲げられましたが、審査の迅速化は、ベンチャービ ジネスの育成の観点からも重要であり、ぜひとも実効につなげてほしい ものです。

第2は、模倣品、海賊版対策です。模倣品や海賊版は、企業や著作権 者などのもつ無体財産権を盗み取るに等しいもので、 とうてい許しがたいものです。しかし、残念ながら、中国をはじめとするアジア諸国を中 心に、こうした権利意識が不十分な実態があります。こうした地域が急 速に工業化したことにともない、模倣品や海賊版の被害も急増しており、 関係団体の推計によれば、中国におけるわが国コンテンツの権利侵害の 被害額は、年間約2兆円にも達しているということであり、これはもはや放置することはできない段階となっています。

これに関しては、われわれ民間企業が、あらゆる模倣品や海賊版に対 して、それを許さないという強い姿勢をもって対処していくことが、な により必要であり、たとえば、キャラクター商品大手の「サンリオ」は、 同社のキャラクターを無断で使用していた商品を生産していた工場の摘 発と、被害品の押収に成功しています。

また、官民をあげての知的財産外交も、強力に推進していく必要があります。一昨年末には、国際知的財産保護フォーラムの座長であり、当 時経団連の副会長も務めていた松下電器産業の森下会長を代表に、当時 の西川経済産業省副大臣を政府代表に加えて、知的財産保護に関する官民合同のミッションが一週間にわたって中国各地を訪問し、模倣品の現 物を示しながら抗議するとともに、事態の改善を要請するといった取り 組みも行われました。

知的財産推進計画 2004には、模倣品・海賊版対策の強化も盛り込まれています。各国において知的財産の管理体制が確立され、権利が適正 に保護されることは、中長期的には各国自身の経済発展にも資するもの ですから、国際協力という見地もふくめ、強力な施策の推進をお願いしたいと思います。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その10

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.1.4 日本が優位にある環境技術戦略

環境問題とエネルギー問題は、われわれ人類がその未来のためにどうしても解決しなければならない最重要の問題の1つであり、モノづくり 企業の改革にあたっても重要な観点となります。

(1) 省エネルギー技術

エネルギー自給率が 70%以上のアメリカや、100%を超えてエネル ギー輸出国となっているイギリスなどと異なり、わが国のエネルギー自 給率はわずか4%しかありません、先進諸外国の中で最もエネルギー資 源が乏しい、という厳しい制約を克服するために努力を積み重ねてきた ことで、結果的にわが国は、世界で最も優れた省エネルギー技術を達成 し、経済産業の発展を実現してきました。

わが国の産業部門におけるエネルギー消費量は、1970年代前半から 今日に至るまで、ほとんど増加しておらず、GDP あたりに換算してみ ると、1970年代前半と比較して 20%以上の効率改善となっています。 これは OECD 平均の2倍のエネルギー利用効率です。わが国は省エネ ルギー技術は、間違いなく世界最高の水準にあるといえるでしょう。現 に、燃料電池や太陽光発電といった新たな技術分野での取り組みも、世 界に先んじて進めています。

(2) 環境技術

また、環境技術と省エネルギー技術とは、重なりあう部分も大きく、 わが国において高度成長期に急速に工業化が進んだことの裏返しとして、 深刻な公害問題、環境問題に直面したことによって、この分野において も、やはり世界で最先端の技術を蓄積しているのです。

現在、地球温暖化防止に向けて、国際的な枠組みによる取り組みがはじまっていますが、すでに世界最高水準にあるわが国にとって、1990 年比で温暖化ガスの削減を求める京都議定書の目標達成は、大変高いハードルとなっています。しかし、そのハードルに挑むことが、世界最高 水準の技術を、さらに進歩させ、革新させることにもつながり、それは きわめて強力な競争力の源泉となるでしょう。

もちろん、国家的な課題としての二酸化炭素排出量の削減、京都議定 書の達成に向けての取り組みは、産業分野に限らず、あらゆる分野で進 める必要があります。わが国の場合はとくに、1990年以降排出量が増 加を続けている民生部門での取り組みを重点的に進める必要があるでしょう。とはいえ、企業においても、より一段の省エネルギー、環境対策 に取り組むことは、技術力、競争力の強化という形で、企業改革の成果 に結びつくのです。

わが国は、循環型社会への転換を国是として、地球環境との共生を可 能とする日本企業の製品、技術やビジネスモデル、あるいは日本国民の ライフスタイルを国際社会で活発に展開することで、全世界の循環型社 会への移行を後押しするというシナリオを、将来の競争力戦略としていくべきでしょう。

2001年、ヨハネスブルグで、国連環境開発会議、ヨハネスブルグ・ サミットが開催され、その場で欧州が、自分たちが優位にある再生可能 エネルギーの利用率について、一律の数値目標の設定を提案しました。 その真意は、環境改善そのものというよりは、自分たちの取り組みをグ ローバル・スタンダードにして、ビジネスチャンスを拡大しようという ところにありました。 このように、これからの時代は、環境問題はコス トではなく、むしろ新たなビジネスチャンスなのです。

(3)燃料電池

 環境について現時点で最も有望な技術のひとつとして、燃料電池があります。これは要するに水の電気分解の逆をやるという原理で、水素と 空気中の酸素を使って水をつくり、その際に発生するエネルギーを取り 出そうというもので、究極のクリーンエネルギーとして注目されていま す。 自動車に対する応用に期待と関心が集まっているようですが、自動 車に限らず非常に応用範囲の広い技術であり、すでに工場の自家発電な どでは多数の実用例もあります(図 3.5参照)。

ここで注目すべき点は、燃料電池のような画期的な技術が実用化され ると、産業や技術に大きな変動をもたらす可能性がある、ということで す。 エネルギー産業だけではなく、モノづくりへの影響も考えられます。 自動車産業はもちろんですが、アルコールを使うタイプの燃料電池は発 電効率には劣るものの小型化が可能なので、たとえば充電の必要がない 電源として、 ノートパソコンへの応用が期待されています。

技術革新の進展によっては、石炭と蒸気機関による第一次産業革命、 石油と電力による第二次産業革命に続いて、水素と燃料電池による第三 次産業革命が起きるという予想をする人もいます。 「科学技術創造立国」 の切り札のひとつとして、産業界も技術開発と実用化、商品への応用に 取り組んでいかなければなりません。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その9

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.1.3 産学連携で産業の発展を

 「科学技術創造立国」に不可欠なのが、産学官の連携です、

ここ数年、国家財政がきわめて厳しい状況にあり、さまざまな財政支 出の削減が進められているなかで、科学技術関連の予算については減ら されないばかりか、むしろ増加しています。その中でもとくに重視されているのが、「産学連携」です。

その気運は一種の国民運動とでもいえるような盛り上がりを見せて おり、政府の調査によれば、1992 年度から 2002年度の10年間で、企業 と大学の共同研究は5倍近くに増加しています。大学発のベンチャーも 年間数百社のペースで誕生しています。

これはすなわち、モノづくり企業の改革において、大学との連携ということが、きわめて重要なテーマとなっているということを示すもので しょう。

ここで最も重要なのが、産学の人材交流を通じて、大学で創造された 技術を、ビジネスにつなげていくことです、これからの産学連携は、ビ ジネスとしての連携の時代に入ってくるのです。ノーベル賞の連続受賞 や、発表された論文の引用件数の多さ、また、GDPに対する研究開発 投資額や特許登録件数でも、わが国は、世界のトップクラスにあります。 しかし、これらの成果が、効率的に産業化へと結びつき、わが国の社会 生活の向上や、新産業の創出、雇用の拡大につながっているケースが少ないのがわが国の現状なのです。実際、経営開発国際研究所(IMD)に よる世界各国の競争力ランキングによれば、研究成果が事業化される水 準や、起業家精神の度合いという点で、日本は主要先進諸国の中で最も 低い水準にあります。

これはやはり、わが国にそうした人材不足や環境が整っていないこと が最大の問題点だと思われます、大学で創造された知を、わが国の企業 として、積極的に事業化することができる人材を、産学連携で育成して いかなければなりません。企業と大学との人事交流、あるいは産学共同 での技術系人材の育成などにモノづくり企業が取り組むことで、大学で 創造された知を、 ビジネスとして開花させていくことができるはずだと 考えています(図 3.4参照)。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その8

奥田 碩 さんの講演内容です。

(2)人の交流

それに加えて、資本、ビジネス以外の部分での人の交流も、重要なポ イントです。たとえば、留学生や研究者といった人たちの交流です。海 外から優秀な研究者や留学生を受け入れることは、わが国の研究のレベ ルアップに直接つながることであり、また、留学生がそのまま日本で就職してくれれば、わが国経済にとって貴重な戦力になるのです。

逆に、わが国から海外に人材を送り出すことも、同様に重要なのです。 「頭脳の空洞化」を心配する意見もあるようですが、こうした人たちに よって海外からわが国にとって非常に貴重な新しい情報、優れた技術が もたらされるメリットのほうが大きいと考えたいと思います。また、こうした人たち一人ひとりの能力が向上することにより、わが国の人材が より多彩となり、厚みを増していくのではないでしょうか。

さらに、ビジネスや研究ではない、遊びの部分での人の交流、すなわ ち観光客の呼び込みが、これからはたいへん重要な課題になります。

わが国は、四季折々に美しい豊かな自然をはじめ、文化や歴史に裏付 けられた数多くの観光資源を有しているにもかかわらず、わが国から海 外に観光に出かける人が年間 1、000万人をはるかに超えるのに対し、わ が国に観光に来る外国人は年間500万人にも満たないのが現状です。要 するに、日本人は世界中に遊びに行っているのに、日本はハード、 ソフ トの両面で、外国人に観光を楽しむ場を提供できていないのです。

外国の資本や人材を日本に呼び込もうとしたとき、その判断は、必ず しも経済的要因ばかりで行われるとは限らず、経済以外の部分で日本の ことを知っているかどうか、日本や日本人に好感をもっているかどうか といったことが、時には経済的要因と同じように重要になることもあり ます。そういう意味で、日本シンパ、日本ファンを世界に増やしていく ことが重要であり、そのためには、観光客を増やすことが、まずは入口 になるでしょう。 さまざまなインフラや環境を整備するとともに、すべての日本人が外国人観光客を心から歓迎する気持ちをもつことで、人の 交流を拡大していけば、単なる経済効果以上のものが期待できるはずで す。

2002年に開催されましたサッカーのワールドカップでは、多くの外 国人が日本を訪れ、日本に対してよい印象をもってくれた人、日本に来る前に較べて日本を好きになってくれた人も多かったと思います。このような国際的なイベントを国民をあげて成功させていくことは、世界に 日本ファンを増やすことに直結させることであり、わが国の次なる国際 的イベントである万博、「愛・地球博」も、国をあげて成功させていか なければならないのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その7

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.1.2 科学技術創造立国の確立と MADE “BY” JAPAN 戦略

 それでは、「MADE “BY” JAPAN」戦略とはどういうものか、考え 方としては、企業経営における連結経営の発想を、国の経済戦略にも取り入れていこうというものです(図 3.3参照)。

(1) 連結経営の発想

 現代は人、モノ、 カネ、情報がグローバルに行き交う時代であり、とりわけカネと情報については、きわめて速いスピードでボーダーレスに 移動しています。こうしたなかで、今日の日本企業は、海外子会社を含めた連結決算ベースの経営を進めることが多くなりました。また、これ とは逆に、外国企業の日本法人は、日本でビジネスを展開しつつ、外国企業の連結決算に組み込まれています。  

これを、日本の経済活動に応用してみると、日本企業の対外直接投資 が生み出す収益やライセンス料などを日本国内の経済活動に還流させて、 さらに先進的なイノベーションに結び付けていく、という考え方が出て きます。日本から新技術や新商品を発信し、それを世界の各国が作って 世界中で売り、その一部は日本にも輸入する、ということになります。 世界のフロントランナーとして、世界に発信していこうということです。

現実には、すでに日本のグローバル企業では具体的な取り組みがはじ まっています。ある程度コモディティ化した商品、労働力の豊富さや廉 価さが競争力に直結するような商品については、たとえば中国に投資を して、技術を移転し、そこで作って日本をふくむ全世界へと輸出する、 という戦略をとっている企業は数多くあります。その一方で、日本国内 においては、同じ企業が、最新技術やデザイン、あるいはブランドなど によって差異化した、日本でなければつくれない商品に特化していこうとする、などといった例です。

このような水平分業を進めるのにとどまらず、海外投資などで獲得した利益を日本国内に還流させて、それを研究開発などに投下することで、 さらなるイノベーションに結びつけていくことができれば、日本はつねに世界の一歩先を行く技術水準を実現していくことができるでしょう。 これが、今後わが国が目指すべき姿なのだろうと思います。技術やノウ ハウを積み上げて、ビジネスに生かすだけにとどまらず、それをグロー バルに展開し、さらなるイノベーションにつなげるダイナミズムをもった国をつくることが、本当の意味での「知的財産立国」ということになるのだろうと思います。

連結経営的な考え方を応用すれば、日本企業の海外進出だけではなく、 外資によるわが国への対内直接投資を増やし、それを日本国内のイノベーションにつなげていくという発想も出てきます。 このところ、金融や保険、あるいは流通などを中心に、外資の参入が 目立つようになってきました。自動車産業でも、外資が活発に参入して きています。しかし、わが国が擁する巨大な消費市場を考えれば、わが 国に対する海外からの投資は、まだまだ少ないと考えるべきでしょう。 今後は、外資が進出しやすい環境、外資を誘致しやすい環境を準備して、 資本だけでなく、外資のもつ優れた技術やノウハウを積極的に取り込んでいくことが大切です。新技術や新製品の開発についても積極的に海外 の力を生かすことは、「科学技術創造立国」を実現させるうえでも重要 な戦略になります。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その6

奥田 碩 さんの講演内容です。

3.今後日本が取り組むべき3つの大きな課題

さまざまな問題を背景に、今日のわが国にとって、やらなければなら ない3つの重要で大きな課題があります。

第1に「揺るぎない技術大国日本の構築」。

第2に「日本の次世代を担う継続的な高能力人材づくり」。

第3に「未来に向って夢と生きがいがもてる日本の進路づくり」。

以上の3つに取り組まなければなりません(図 3.1 参照)。

3.1 ゆるぎない技術大国日本の構築

改革の基本方針であり、第1の大きな課題となるのが、「ゆるぎない 技術大国日本の構築」であります。今後のわが国産業のビジョンを考えるに際しては、先に述べた80年代のアメリカの考え方、すなわち、も ともとアメリカが優位性をもっていた金融分野において、さらに技術革 新を促進し、高度化を進めたという戦略に学ぶ必要があります。

3.1.1 技術革新の推進

 わが国における優位性とは、やはりモノづくりに一段と磨きをかけ、 そこから技術革新を推進することだと思います。わが国の特徴として、 技術革新が大学や研究所だけにとどまらず、日本中のさまざまな工場、 現場において、多数の現場の技術者、技能者が知恵をしぼり、工夫をこらして、無数の改善、発明を積み上げることで、大きな力を発揮してい る、ということがあげられます。こうした特徴こそがわが国の優位性で あり、これを将来戦略に生かしていくべきだと思います。

具体的にとるべき戦略として、日本経団連は 2003年1月に発表した 総合的政策パッケージの提言である「新ビジョン」において、「MADE “BY” JAPAN」戦略を提唱しています。前に述べた、「中国との水平分 業体制の構築」も、その重要な一環として位置づけることができます。 戦後のわが国は、加工貿易によって復興と発展を果たしてきました。 これはすなわち「輸出立国」であり、いわば「MADE IN JAPAN 戦略」といえます(図 3.2 参照)。 これは、世界から技術やアイデアを導入 して、それを改善して、より安く、より品質のよいモノをつくって、それを輸出するという戦略です。

しかし、世界第二の経済大国となったわが国が、いつまでも「輸出立国」を続けることは、もはや許されない状況にあります。これからのわが国は、「輸出立国」ではなく、「交易立国」をめざしていかなければなりません。それが「MADE “BY” JAPAN」戦略です。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その5

奥田 碩 さんの講演内容です。

2.3 産業構造の転換によって復活したアメリカ

同じ時期のアメリカと比較してみると、この時期のわが国の対応がいかにまずかったかは一目瞭然です。 アメリカ経済は 1980年代に大変な 苦境に立たされ、国家戦略として、国を挙げて経済の復活に取り組みはじめました。

まずは、政府が通貨政策に取り組み、 1985年には先進5カ国が協調 してドル安、日本からみれば円高に誘導するという「プラザ合意」の成 立にこぎつけることで、通貨政策を通じて国内産業の競争力の低下に歯 止めをかけました。これで空洞化を食い止めるとともに、日本企業など の現地生産を促すことに成功したのです。さらに、おもに日本企業のベンチマークを通じて、製造業の復活に取り組みました。日本企業が TQCを取り込み、成功し、デミング賞の獲得競争が品質管理水準の向 上に大きな成果を上げていることがわかると、当時すでに80歳の高齢 だったデミング博士が再評価され、全米の品質管理運動の先頭に立たされました。また、日本のデミング賞と同様のものとして、米国は 1987 年に、時の商務長官の名前にちなんだ「マルコム・ボルドリッジ国家品 質賞」を議会が設立しました。 その他にも 、 シックス・シグマやタグチ メソッドなどの統計的品質管理手法が展開され、官民あげて日本への 「逆キャッチアップ」を推進して、製造業の復活につなげていきました。

さらに重要なポイントは、こうした従来からの供給サイドを強化する 施策だけではなく、付加価値が低下し、競争力の確保が難しくなった製 造業に代わって、より付加価値の高いIT 技術と金融技術とに産業構造の中心をシフトさせていくという、新しい成長戦略を打ち出して、その ための政策を重点的に実施していったことです。具体的にいえば、国際 的な金融自由化の推進や、当時のゴア副大統領による「情報ハイウェー」 構想といったインフラの整備を、国家戦略的に進めました。

こうして、アメリカは新しい成長のエンジンを獲得し、産業構造の転 換に成功しました。 結局のところ、日米の現実を分けたものは、1980 年代後半という、 グローバル化と IT 革命が進展した重要な時期に、国 家経済に対する危機感をもっていたかどうかという意識の問題と、それ を踏まえた国家的な産業政策の巧拙の違いであったということです。

2003年度の下半期あたりから、日本経済はかなり明るさを増してきました。いまの日本経済を引っ張っている主役のひとつがデジタル家電 で、これは電機各社がバブル崩壊後の厳しい時期、苦しいリストラに取り組みながらも、歯を食いしばるようにして研究開発を続けてきた、そ の成果が現れたものといえるでしょう、このような民間の活力が生きて いるうちに、これからの国家経済を支える新しい産業政策のビジョンづくりとその推進に強力な取り組みが求められます。そして、そのビジョ ンと戦略に沿って、モノづくり企業も改革に取り組まなければならないのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その4

奥田 碩 さんの講演内容です。

2.日本のモノづくり産業の実態

2.1 モノづくり産業の空洞化

日本のモノづくり産業の現状を見ると、従業員4人以上の企業を対象とした経済産業省の工業統計調査によれば、わが国の製造業の付加価値 額は、1991年の126兆円をピークとして、2002年には 97兆円にまで減少しており、従業者数を見ても、1991年の1,135万人をピークに、2002 年には832万人にまで減少しています。これはまさに、わが国製造業の空洞化を示すものです。

戦後のわが国が加工貿易路線を強力に推し進めていった結果、1980 年代に入って、わが国の巨額の貿易黒字が国際社会、とりわけ米国から きわめて強い批判を受け、その米国の貿易赤字を減らすため、1985年 には、先進5カ国がドル安に向けて協調するという、 いわゆるプラザ合 意が成立しました。

その後、円高不況の中で、日本の製造業は、生産性の向上やコストダ ウンなどに徹底して取り組み、1ドル 240円から100円にまで円高が進 んでも、利益が出せる体制をつくり上げる産業・企業も現れました。そ の一方で、自動車産業や電機産業などによる海外生産の拡大が進みはじ め、雇用調整もかなりの規模で行われました。

また、一部の産業・企業では国際競争力を喪失して、国内生産が成り 立たなくなる実態も現れてきて、空洞化の進展が始まりました。

2.2 周回遅れになった日本経済

結果論になりますが、今から思えば、本来ならこの時期に、海外生産 を拡大する産業、あるいは競争力を失いつつある産業に代わって、将来 の日本経済をどのような産業で支えていくのか、というビジョンを真剣 に議論すべきだったのでしょう。しかしこの当時は、日本の巨額の貿易 黒字に批判が集まっていたこともあり、ひたすら市場開放と内需拡大を 求める論調が主流でした。

そして、内需拡大のために金融緩和をやりすぎた結果、バブル経済が 引き起こされ、まさにうたかたの好景気に沸くなかで、空洞化への懸 念や、「日本の将来を担うべき新しい産業は何か」といった取り組みが おろそかになってしまったのです。 今から思えば、当時のわが国には、先進各国から批判されるほどの経 済力をもつに至ったことによる、一種の油断、あるいはおごりのような ものがあったことは、否定できないと思います。しかも、日本がバブルに浮かれている間に、世界では非常に大きな2つの動きが激しく進んで いました。それは、いうまでもなく、「経済のグローバル化」と、「情報 通信革命」であり、この2つの大きな潮流にことごとく乗り遅れたこと が、日本経済に決定的な影響を与えました。そこにバブルの崩壊が重な り、その後始末に手を焼くなかで、まさに「周回遅れ」ともいうべき状 態に陥ってしまったのです。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その3

奥田 碩 さんの講演内容です。

1.2 中国と日本の貿易の実態

中国の発展の状況は、中国と日本の貿易の実態にも表れています。 財務省が発表している貿易統計速報によれば、2002年度の中国から の輸入は約8兆円、2003年度は約9兆円で、連続して前年度比で二桁増 となっています。その結果、中国は米国を抜いて、わが国にとって最大 の輸入相手国になりました。その内容も、パソコンなどの事務用機器が 増加する一方で、繊維製品や食品の輸入は減少するなど、高度化しています。

また、日本から中国への輸出も、 2002年度が約5兆4千億円、2003 年度は約7兆円と、こちらも連続の二桁増です。一方でアメリカとの貿 易は、2002 年度、2003年度ともに、輸出入とも減少しており、日本の 貿易における中国のプレゼンスは年々高まっています。

さらに、この統計には入ってきませんが、日本から香港経由で中国に 輸出されているものも別に相当額あります。中国は、日本企業にとって 大きなマーケットに成長しつつあるのです。さらに、中国への直接投資 が活発に行われてきた結果、工作機械や電子部品などの輸出が増えています。

それに加えて、中国からの配当や利子などの経常収支も増加してきて いて、投資に見合った十分なものであるかどうかは別として、日本企業 の中国投資がリターンを生みつつあることも事実です。

すなわち、わが国と中国との経済関係は拡大しつつあり、相互依存関 係も強まっていると考えられます。水平分業も徐々に進められています から、一時期世間でしきりに取りざたされ、いまだに一部に見られるよ うな、単純な中国脅威論には賛成できません。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その2

奥田 碩 さんの講演内容です。

1. 中国の発展がもたらす日本への影響

1.1 生産技術力を身につけた中国

わが国のモノづくり産業、製造業が改革を迫られている背景には、第 一に、今日におけるめざましい中国の発展があります。

今や中国は、エアコンやテレビ、冷蔵庫といった家電製品をはじめ、 粗鋼やモーターバイクなどでも世界シェアでトップに立っています(図1.1参照)。

このような中国の急成長は、外資の技術力、とりわけ生産技術と、中国の豊富で廉価な労働力とが結びついた結果だと思われます、そのスピードはわれわれが予想したよりも、はるかに速くなっています(図1.2 参照)。

とりわけ、労働力の豊富さに関しては、圧倒的なものがあります。聞くところによれば、上海や、広州近くの東莞などでは、たとえば「20 歳から 24歳までの右利きの男性で、視力 2.0以上、座高が105cmから115cmの人を10人募集」といった張り紙を出すと、翌朝にはたちどころに 100 人くらい集まる、といった状況にあるそうです。

しかも、勤務態度はおしなべて良好であり、欠勤率は1%以下で、残 業や休日出勤なども争って働くそうです。それで賃金水準は日本の 1/20 なのです(図 1.3参照)。

こうした豊富で廉価な労働力が、欧米や日本から持ち込まれた最新鋭の生産設備、生産技術と結びついて、これを十分に使いこなして、高い品質水準を実現しています。ですから、日本国内で中国と同じモノを作 っていたのでは太刀打ちできないことは当然だと考えなければならないでしょう。

すでに言い尽くされたことではありますが、これからは、コモディティ化した製品、標準化された大量生産の商品に関しては、中国と競争することは難しいと考えざるを得ないと思われます(図 1.4参照)。

中国が経済開放政策を取り続けるかぎり、こうした方向性は変わらないものと思われます。そうした中では、わが国は先端技術やブランドなどで差異化した、付加価値の高いブランド商品を中心として、中国の大 量生産のスタンダード商品と住み分ける、いわゆる「水平分業」を戦略としていくべきだと思います(図1.5参照)。

モノづくり企業の改革の必然性とその戦略 その1

奥田 碩 さんが2003年11月に講演した内容を書きます。

奥田 碩 さんは元トヨタ自動車株式会社会長でかつ元日本経済団体連合会会長でした。

内容は以下目次です。

1. 中国の発展がもたらす日本への影響

1.1 生産技術力を身につけた中国

 1.2 中国と日本の貿易の実態

2.日本のモノづくり産業の実態

2.1 モノづくり産業の空洞化

2.2 周回遅れになった日本経済

2.3 産業構造の転換によって復活したアメリカ

3.今後日本が取り組むべき3つの大きな課題

3.1 ゆるぎない技術大国日本の構築

 3.1.1 技術革新の推進

3.1.2 科学技術創造立国の確立と MADE “BY” JAPAN 戦略

(1) 連結経営の発想/(2)人の交流

3.1.3 産学連携で産業の発展を

 3.1.3 産学連携で産業の発展を

3.1.4 日本が優位にある環境技術戦略

    (1) 省エネルギー技術/(2) 環境技術/(3)燃料電池

3.2.1 失われつつある日本のモノづくり力

3.2 日本の次世代を担う強靭で高能力な人材づくり

3.2.1 失われつつある日本のモノづくりカ

 3.2.2 現場力の点検と再構築

 3.2.3 人材の育成

3.3 日本の未来に夢と生きがいがもてる進路づくり

3.3.1 日本に「成長エンジンと制度インフラ」の強力な両輪づくり

 3.3.2 時代が変わっても、人が変わっても,ゆるぎなく繁栄し続ける日本づくり

3.3.3 多様性のダイナミズム

 3.3.4 他者への共感

3.3.5 社会への信頼の回復

3.3.7 新たな住環境の整備

3.3.8 非営利部門の充実

おわりに

次はその公演の内容を具体的に書きます。20回程度になります。